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NPO東海生研 大石 一史
前回紹介したイソスミレの自生地にはアナマスミレも生息している。イソスミレほどには目立たないが、アナマスミレも厳しい環境を生き抜く力強さを持っている。
イソスミレがタチツボスミレの仲間であるのに対し、アナマスミレはスミレの仲間で、スミレの海岸型変種とされる。葉の形態も花の色・形もスミレによく似ている。「スミレ」は種名としてのスミレと「スミレの仲間の総称」という意味があるので紛らわしい。種として扱う場合には、Viola mandshurica の種名をとってマンジュリカと呼ぶ人もいる。アナマスミレはViola mandshurica var. crassa である。名前の由来は北海道礼文島のアナマで発見されたことによる(礼文町ホームページより)。
写真1アナマスミレ 写真 2 スミレ
形態がよく似ている。アナマスミレの方が、葉が厚い。
写真3 アナマスミレとイソスミレが同居している。手前がアナマスミレ、奥がイソスミレ。カワラヨモギ、ハマボウフウ、ハマベンケイソウも混じって生えている。
砂丘に育つ植物は、冬は北風、夏は灼熱地獄に曝される。乾燥と砂の堆積という難問にも対応しなければならないので、温暖・湿潤な所に比べると生息する植物の種類は少ない。アナマスミレもイソスミレも厳しい環境に適応して、春になるとちゃんと花を開く。砂の堆積が激しい所は埋もれて枯れてしまう場合もある。ハマゴウ(常緑の小低木で夏に青紫色の花が咲く)に席巻されて個体数が減少するところもあるという(本多郁夫、2014)。どうにか生き残ってほしいものである。
写真4 ハマゴウの花
イソスミレ、アナマスミレの自生地によく見られるクマツヅラ科のハマゴウは、砂浜に長く茎を伸ばしてそこからたくさんの枝を立ち上げる。イソスミレ、アナマスミレの自生地ではハマゴウが広がって砂浜を独占する勢いである。スミレから見ると悪者のようであるが、夏に美しい花を着ける。地域によっては護岸整備などによって砂浜が減少しつつあるというからハマゴウも生きる場所を見つけるのが大変である。
写真5 花弁に白い斑模様が見られるアナマスミレ。
花弁に白い斑模様が見られる個体が散見する。変異個体が全く観察できないスポットもあれば、多数の個体が観察できるスポットもある。花色変異(突然変異)かも知れないが、キュウリモザイク病(CMV:Cucumber mosaic virus)ではないかと疑っている。花弁に白い斑模様が見られる個体では、葉が萎縮する、葉に黄斑が現れる、葉が凸凹するなどの症状が同時に見られることが多いからである。